院長は、予防歯科および歯周病治療に強い関心を持ち、これまで多くの勉強会や研修に積極的に参加し、知識と技術の向上に努めてまいりました。その一方で、入れ歯(義歯)治療についても深く学び、臨床において重要な分野として真摯に取り組んできました。
入れ歯は、単に型取りの技術だけで良いものができるわけではありません。良質な入れ歯を作製するためには、患者さまのお口の中の状態を総合的かつ正確に把握したうえで、全体のバランスを考慮して設計を行うことが不可欠です。
たとえば、食べ物をしっかりと噛むためには、上顎と下顎の歯が適切に接触し、機能することが必要ですが、その噛み合わせの再現が入れ歯にも求められます。噛み合わせが不適切であると、入れ歯に痛みを感じたり、うまく噛めなかったりといった問題が生じてしまいます。
また、入れ歯のバネ(クラスプ)がかかる歯の状態も非常に重要です。支えとなる歯がぐらついていたり、健康でなかったりすると、入れ歯が安定せず動いてしまい、噛みにくさや痛みの原因となります。
このように、入れ歯作製においては噛み合わせ、支台歯の状態、粘膜の健康、顎の形状、筋肉の動きなど、さまざまな要素を丁寧に確認・評価し、総合的に診断・設計することが大切です。噛める、痛みのない、快適な入れ歯を提供するためには、一つひとつの工程を丁寧に積み重ね、全体を見据えた治療計画が欠かせません。
入れ歯の作製は、歯科医師のみの技術や判断で完結するものではなく、歯科技工士との密接な連携によってはじめて高品質なものが完成します。どれほど優れた知識と技術を持つ歯科医師であっても、実際に入れ歯を形にする歯科技工士の技術が伴っていなければ、患者さまにとって快適で機能的な入れ歯を提供することはできません。
細川歯科医院では、この歯科技工士との連携を非常に重視しており、保険診療用の入れ歯を依頼する技工所と、自費診療用の入れ歯を依頼する技工所とで、明確に分けて対応しております。これは、それぞれの診療内容に求められる精度や使用する材料の違いに応じて、最も適した技工士に作製を依頼するためです。
私が30代の頃、ある勉強会で自身の症例を発表した際のことです。通常は自費診療の症例を取り上げることが多いのですが、そのときは保険診療の患者さまの症例を紹介しました。すると、参加者の一人から「先生の治療技術には歯科技工士のレベルが追いついていないのでは?」とのご指摘をいただいたのです。その言葉は非常に印象に残り、自身の臨床を見直す大きなきっかけとなりました。
それ以来、当院では保険診療においても一定以上の品質を担保できるよう、依頼する技工所を慎重に選定しています。これは、歯科技工士もまた歯科医師と同様に、技術力や経験に大きな個人差があるためです。患者さまに質の高い入れ歯をお届けするためには、信頼できる技工士との継続的な連携が不可欠であり、その関係性も治療の一部と考えております。
保険診療における入れ歯の作製には、使用できる材料や作業工程、製作にかけられる時間など、さまざまな制約があります。そのため、見た目や機能性、快適性のすべてにおいて理想を追求するには限界があるのが現実です。一方で、自費診療で作製する入れ歯には、こうした制限がありません。患者さま一人ひとりの口腔内の状態やご要望に合わせて、細部までこだわり、より高精度かつ快適な入れ歯を提供することが可能です。
当院では、自費治療における入れ歯の製作を「バイテック・グローバル・ジャパン」という技工所に依頼しています。これまで私が関わってきた多くの歯科技工所の中でも、特に技術レベルが高く、信頼のおける技工所だと実感しています。細やかな設計力や高度な加工技術だけでなく、最新の知識と技術への探究心を持ち続けている姿勢にも強く共感しています。
もちろん、歯科医師自身も常に研鑽を重ね、知識と技術を高めていくことが重要ですが、それは歯科技工士にとっても同様です。近年、歯科医療は急速にデジタル化が進んでおり、入れ歯の分野においても「デジタルデンチャー(デジタル義歯)」という新しい技術が注目されています。
デジタル歯科(デジタルデンティストリー)についての詳しい記載はこちら
バイテック・グローバル・ジャパンでは、そうした時代の流れにいち早く対応し、デジタルデンチャー技術を積極的に学び、導入し、実際の臨床に応用しています。現在もなお、その知識と技術の研鑽を継続し、より完成度の高い入れ歯作りを追求し続けている点において、非常に信頼できるパートナーです。
もう少し補足してお伝えすると、「しっかり噛める入れ歯」を作るための高度な技術のひとつに、「ダイナミック印象(機能印象)」という方法があります。
一般的な入れ歯の作製では、まず型取りを行い、そのデータをもとに入れ歯を製作し、完成した入れ歯をお口に装着して、かみ合わせを調整して仕上げるという流れが通常です。しかし、それだけでは患者さまのお口の動きや粘膜の柔らかさ、筋肉の動きなど、日常生活での使用環境を十分に反映することが難しく、場合によっては「痛い」「外れやすい」「噛みにくい」といった問題が残ることがあります。
そこで導入されるのが「ダイナミック印象」です。この方法では、ほぼ完成した入れ歯の内面に、柔らかく弾力のある素材(例えるなら、やわらかいお餅のようなもの)を入れて、その状態で実際に1〜2週間、日常生活の中で入れ歯を使っていただきます。食事や会話、表情の変化といった自然な動きの中で、この素材が患者さまの歯ぐきや筋肉の動きに合わせて形を変え、最適なフィット感を記録してくれるのです。
その後、その状態で得られた情報をもとに、入れ歯の内面を再調整・修正することで、その方の口腔内にぴったりと合い、動きづらく、しっかりと噛める入れ歯に仕上げることができます。この工程を加えることで、従来の入れ歯よりも快適性や機能性が大きく向上し、「本当に噛める入れ歯」に近づくことが可能になります。
ただし、この方法にはいくつかの注意点もあります。まず、ダイナミック印象は患者さまお一人おひとりの口腔状態に合わせて作り上げる完全オーダーメイドの工程となるため、どうしても費用が高額になります。また、通常の入れ歯に比べて工程が多く、精密に作り込む必要があるため、完成までにおおよそ2〜3ヶ月の期間をいただくことになります。
この2点――「費用面」と「治療期間の長さ」――についてご理解・ご納得いただける方にとっては、「コンフォート義歯(入れ歯)」のようなダイナミック印象を取り入れた入れ歯は、非常におすすめできる選択肢です。
当院オススメの入れ歯コンフォートの紹介はこちら
細川歯科医院では、歯科医師をはじめとするスタッフ全員が連携し、「よく噛める入れ歯」の作製を全力でサポートしております。入れ歯に関するお悩みやご希望がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。最善の方法を一緒に考え、ご提案させていただきます。(令和7年7月記)