細川歯科医院が他の歯科医院と大きく違うところは、この根本的な「治療に対する考え方」だと思っています。
ここでは、細川歯科医院が大切にしている治療の基本的な考え方について、より詳しくご説明いたします。
一般的に、患者さまが歯科医院を訪れる際には、何らかの「気になる症状」や「困っていること」がある場合がほとんどです。当院では、まず何よりもその"気になること"を的確に把握し、可能な限り早く解消することを最優先に考えています。
これは「主訴の解決」と呼ばれるもので、患者さまが最初に訴えられる主な症状に対して丁寧に対応することを意味します。主訴が解決されなければ、患者さまの不安や不快感は続いたままとなり、他の治療に進むことも困難です。そのため、まずは主訴の解消にしっかりと取り組みます。
その後、その他の部位に関して治療が必要かどうかについては、患者さまとじっくりとご相談し、治療へのご希望がある場合に限って、必要な処置を進めていく方針をとっています。
初診を迎えたその日から治療が始まり、症状や治療部位によっては、数日から数ヶ月にわたって通院いただくことになります。治療内容によっては、詰め物や被せ物の装着、入れ歯の製作などを段階的に行い、治療完了に至るケースもあります。一方で、患者さまの状態によっては、年単位での治療となることも少なくありません。
一般的には、歯科治療というものは「初診から完了まで、できるだけ短期間(半年や1年、場合によっては2年ないしは3年など)で終えるべき」と捉えられがちですが、当院ではそのような時間的制約に縛られた治療は、かえって無理のある、押し付けがましい医療につながる恐れがあると考えています。
限られた期間内で治療を終えなければならないという焦りやプレッシャーは、治療を行う術者側にもストレスを与えることがあり、それが知らず知らずのうちに、患者さまにも不安や負担として伝わってしまう可能性があります。
細川歯科医院では、「治療の終了」というゴールを、数ヶ月や数年という短いスパンで捉えることはいたしません。当院が目指す歯科治療の最終的な目的は、「患者さまが人生の終わりを迎えるその時まで、食べること・噛むことに対して不安や不快を感じることのない状態を保つこと」であると考えています。
ここが他の歯科医院と違う考え方だと思っています。
そのため、治療とは単なる一時的な修復や処置ではなく、患者さまの一生に寄り添う継続的なサポートであるべきだと私たちは捉えていて、そうした治療のあり方をきちんと患者さまにご理解いただきながら、共にストレスの少ないお口の健康を目指して歩んでいくことが、私たちの使命であると考えております。
歯科医療において、二大疾患として代表的なのが「むし歯(う蝕)」と「歯周病」です。
当院では、これらの疾患に対して、それぞれ異なるアプローチと明確な診療方針を持って治療を行っております。
かつての歯科医療では、「むし歯は早期に発見し、早期に治療する」という方針が一般的でした。その結果、初期の小さなむし歯であっても積極的に削り、詰め物を装着することが行われていました。
しかし、これによって詰め物と歯との隙間から新たにむし歯が再発する「二次カリエス(再う蝕)」が頻発し、現在では、その再治療がむし歯治療の多くを占めるようになっています。
現代では、「治療のための治療」を繰り返さないという観点から、初期むし歯はすぐに削るのではなく、むしろ削らずに経過観察を行う方針へと変化しています。これは、歯の保存と将来的な健康を重視した考え方に基づいています。
当院でも、むし歯の治療に際しては、「削るかどうか」の判断を非常に慎重に行っております。具体的には、以下のいずれかの条件に該当する場合のみ、治療に踏み切る方針をとっています:
・視覚的に明らかな実質欠損が認められる場合
有鉤探針(先端が鋭い針のような器具)でむし歯部分を確認した際に、軟化している場合(反対に、硬化している組織であれば削る必要はないと判断します。色では判断いたしません。)
・X線画像において明確にう蝕(むし歯)と判断される場合
それ以外のケースでは、定期的な経過観察のもとで状態を確認し、必要があればタイミングを見て処置を行う形をとっています。これにより、過剰な介入を避け、歯をできる限り長持ちさせることを目指しています。
一方で「歯周病」は、歯を失う最大の原因とも言われる慢性疾患であり、その治療には患者さまご自身の根気と継続的なケアが必要となります。
歯科治療で一般的な歯周病治療の流れは以下のようなものです。
歯磨き指導(ブラッシング指導)
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歯肉の状態が改善されたのを確認後、歯肉の外側に付着している縁上歯石の除去
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歯肉の内側に隠れている縁下歯石の除去
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それでも改善が見られない部位に対しては歯周外科処置を実施
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最終的に被せ物をして治療を終了
しかしながら、現実の診療現場では、すべての患者さまがこの一連の流れにきれいに当てはまるわけではありません。歯周病は患者さまの生活習慣や食習慣、体質、ストレス、モチベーションなどによって大きく左右されるため、当院では「マニュアル通り」の治療枠組みにこだわらず、ひとり一人に適したオーダーメイドの治療を心がけています。
また、歯周病治療においても「限られた時間内で治療を終わらせなければならない」という固定観念があると、かえって患者さまのペースに合わない、押し付け的な治療になってしまう危険性があります。
実際のところ、歯周病の治療においては、患者さまご自身の「やる気」や「意識の変化」といった行動変容こそが治療の成否を大きく左右するとされています。つまり、私たち歯科医療従事者に課せられた本当の使命は、患者さまの意識に働きかけ、継続的な生活習慣の改善へと導くことであると考えています。
一時的なモチベーションではなく、長期的な行動変容の定着こそが歯周病治療の最大のポイントであり、そこにこそ、この疾患の治療の難しさがあるのです。
このような経験を積み重ねてきた中で、私は次第に、「必要以上に歯科医が介入することが、必ずしも歯の寿命を延ばすことにはつながらないのではないか」という考えに至り、むしろ「安易に治療を加えないことが、歯を長持ちさせる最良の方法となる場合もあるのではいか」と考えるようになったのです。
こうした考え方に基づき、細川歯科医院では「治療は必要最小限にとどめること」を診療方針の中心に据えております。
たとえば、
・前述した明らかな歯の実質欠損(歯が大きく欠けている・壊れている)の場合
・無症状の大きな根尖病変(歯の根の先に明らかな感染や病巣がある)の場合
このような状況であれば、積極的な介入が必要と判断しますが、それ以外については、すぐに治療せず経過を慎重に観察します。
主訴が落ち着いた患者さまには、その後、通常4ヶ月ごとに定期的なメインテナンスを受けていただくようご案内しています。このメインテナンスでは、患者さまが普段から取り組まれている歯みがきや生活習慣の成果が、時間の経過とともにどのようにお口の中に現れているかを一緒に確認していきます。つまり、このメインテナンスも私の中では、歯科治療の中に位置づけていて、歯肉の治りを見守り、育てていく時間なのです。
患者さまの頑張りによりどのように歯ぐきの状態がよくなっていくのか、また初期のむし歯が進行していないかといった点をチェックしながら、必要があれば治療に進むかどうかを改めて判断していきます。
むし歯や歯周病は、数年、あるいは十年以上の時間をかけてゆっくり進んでいく病気です。ですので、治すときも「すぐに良くなる」というわけにはいきません。長い時間をかけて悪くなったものは、回復にもそれなりに時間がかかるということを、ご理解いただければと思います。
細川歯科医院では、こうした「時間の流れ」を無理に逆らうことなく、必要なときに必要なだけの治療を行いながら、患者さまと一緒に長い目でお口の健康を守っていく姿勢を大切にしています。
「治療は早くすればいい」という考えにとらわれず、まずはよく観察し、見守る。そして本当に必要だと判断したタイミングで、過不足なく治療を行う。それが、大切な歯をできるだけ長く保つために、私たちが大事にしている基本的な考え方であり、この先も変わらないスタンスです。(令和7年7月記)
デジタル歯科(デジタルデンティストリー)とは、歯科治療においてデジタル機器やコンピューター技術を積極的に活用することで、従来の治療方法をより効率的かつ高精度に行うことを可能にした新しい歯科医療のかたちです。近年、歯科医療全体でデジタル化の波が加速度的に進んでおり、補綴(詰め物・被せ物)、矯正、義歯の製作、画像診断など、さまざまな分野においてその技術が導入されつつあります。 たとえば、詰め物や被せ物の製作においては、これまでは印象材と呼ばれるゴム状の材料を使用して口腔内の型取りを行い、そこから石膏模型を作製し、その模型を技工所に送って技工物を作ってもらうという工程が一般的でした。この方法では、型取り時、模型作製時、そして技工物製作時の各段階で、わずかながらも誤差が生じる可能性があり、それらが積み重なることで適合精度の低い補綴物ができてしまうこともありました。 これに対し、現在ではIOS(口腔内スキャナー)を用いてお口の中を直接スキャンし、そのデータをもとにパソコン上で設計を行い、ミリングマシンと呼ばれる機械でセラミックやジルコニアなどの材料を高精度で削り出す方法が主流になりつつあります。このように、デジタル化によって中間工程を省略または簡素化できるため、結果としてより高精度な詰め物や被せ物の製作が可能となっております。
当院にあるデジタルシステムCERECはこちら
デジタル歯科では、スキャンデータや設計データのやり取りもすべてデジタルで行うため、通信環境の安定性は非常に重要です。当院では、データの送受信中に発生するエラー、特に無線LANで起こりがちな通信の途切れを避けるため、すべてのネットワーク環境を有線LANで構築しています。院内にはCat8規格の高速LANケーブルを配備し、2.5G対応のスイッチングハブ、10G対応の光回線およびルーターを導入することで、安定した高速通信を実現しております。また、患者様のお口の中の画像を表示・管理するために、iPadを用いてWi-Fi接続の「デンタルXR」というソフトも使用しておりますが、こちらにおいても院内に5台の2.5G対応メッシュWi-Fiルーターを設置し、通信の死角が生じないよう万全の体制を整えております。
当院の院長は、学生時代より興味を持ったことに対して深く探究する性格で、パソコンやデジタル技術についても、1980年代のPC-8801というコンピューターの時代から親しんでおり、Windowsの登場後は自作パソコンやLAN構築といった分野に興味を抱き取り組んできました。院内のネットワーク整備や、近年義務化されたマイナンバーカードによるオンライン資格確認の設定に関しても、その複雑さに関わらず、すべて一人で構築しております。
院長はまた、歯周病という複雑な因子が絡む病気に強い関心を持ち、長年勉強を続けてきました。歯周病は原因が一つに絞れない多因子性の疾患であるため、治療が難しいという特性がありますが、そうした「難しさにこそやりがいを感じる」という考えから取り組んでまいりました。現在では、その延長として臨床心理学にも関心を持ち、心の問題についての理解を深めようとしているところです。
日々の診療においても、スキャンした補綴物のデータは、基本的に診療の合間を活用して、次の患者様の診療が始まる前に迅速に設計および製作を行っております。自費診療のセラミックやジルコニアなどは焼成工程が必要となるため、完成までに数日間のお時間をいただいておりますが、保険診療に用いられるCAD/CAM冠については焼成が不要であるため、原則として当日中に技工物の製作が完了いたします。診療の進行状況によっては、翌日の装着も可能であり、結果としてCERECシステムの導入により、患者様の通院回数や治療期間の短縮に大きく寄与しております。また、従来の印象材による型取りでは、嘔吐反射による不快感を訴えられる患者様もいらっしゃいましたが、口腔内スキャナーの導入により、そうした不快感を大幅に軽減することができ、より快適に治療を受けていただけるようになりました。
このデジタル技術は、入れ歯の製作にも応用され始めており、現在は主に自費診療の範囲に限られてはおりますが、将来的には保険診療においても広く活用されることが期待されています。特に入れ歯の型取りは嘔吐反射を誘発しやすい処置の一つですが、スキャナーを用いることで患者様の負担を軽減できるほか、模型を物理的に郵送する必要がなくなるため、インターネット経由で技工所に即時データを送信できるという利点もあり、製作のスピードと精度の向上が見込まれます。ただし、現時点では歯のない粘膜部分についてはスキャナーでの正確な読み取りが難しい場合があるため、その際には従来の印象材による型取りを併用することがあります。なお、総義歯についてはすでに3Dプリンターでの製作が可能となっており、今後は金属バネを含む部分入れ歯についても3Dプリンターによる対応が可能になると予想されており、当院としてもその技術の進展を注視しております。
さらに、矯正治療の分野においてもデジタル化は進行しており、スキャンデータをもとに歯の動きをコンピューター上でシミュレーションすることが可能となってきました。これにより、大きな歯の移動を必要としない軽度の矯正であれば、マウスピース型矯正装置を用いて、より手軽に、かつ比較的リーズナブルな価格で治療を受けられる時代が近づいています。当院ではインプラント治療は行っておりませんが、インプラントの分野においてもCTデータを活用した治療計画が一般的となっており、こちらでもデジタル化の波が着実に広がっている状況です。
このように、今後ますます歯科医療全体がデジタル化に向かっていく中で、細川歯科医院では常に最新の技術と知識を積極的に取り入れ、患者様にとって最も良質で信頼のおける医療を提供できるよう、日々研鑽を重ねてまいります。(2025年6月記)