「良い歯医者さん」とはどんな人なのか、その基準を決めるのはとても難しいことだと思います。
なぜなら、人によって感じ方はさまざま。ちょっとした言葉や態度で深く傷つく方もいれば、まったく気にならない方もいます。
ですから、「患者さんからの紹介」は信頼できる情報ではありますが、必ずしもその歯医者さんが自分にも合うとは限りません。
よく「技術力が高い歯医者さんがいい」と聞きますが、それも一概には言えません。
たとえば、技術力が高いとは「治療した部分が長持ちすること」と考えられがちです。しかし、同じように治療した銀歯でも、10代の頃に入れたものと、60代で入れたものでは、その後の持ち具合が大きく変わります。
若い方は歯や骨の状態が良いため、治療が長持ちしやすいですが、年齢を重ねると歯が揺れやすくなったり、歯の根が割れやすくなったりと、同じ治療でもリスクが高くなるのです。つまり、年齢によって治療の結果は大きく変わってくるのです。
また、状態の悪い歯を「何とか残そう」と頑張れば頑張るほど、治療後にトラブルが起きやすくなる場合もあります。極端な話になりますが、少しでも怪しい歯はすべて抜いて、むし歯も大きく削って全体的にしっかり治療する方が、その後のトラブルは少なく、歯医者に通う回数も減るかもしれません。
ですが、そうした治療が20年後、30年後に本当に良い結果をもたらすかどうかは、また別の話です。
つまり、「治療をしたから長持ちする」=「治療したからQOL(生活の質)が上がる」とは限らないのです。
こうして考えていくと、「じゃあ結局、良い歯医者さんってどんな人なんだろう?」と、ますます分からなくなってしまいますよね。
私自身が思う「良い歯医者さん」とは、もちろん技術も大切ですが、それ以上に「患者さんの気持ちをしっかり汲み取れる人」だと思っています。
どんなときも感情的にならず、丁寧に話を聞いてくれて、そのときそのときに合った的確なアドバイスをくれる歯医者さん。
私も、そんな歯医者でありたいと願い、日々努力を重ねています。
開業して数年が経ち、ようやく診療にも落ち着きが出てきた頃のことです。
ある患者さんの治療を行いました。その方は、ほとんどすべての歯にむし歯があり、時間をかけて丁寧に治療を行いました。
しかし、せっかくしっかりと治療を終えたにもかかわらず、すぐに治したそばから新たなむし歯ができてしまったのです。
「きちんと治したはずなのに、どうして...?」という気持ちになりました。
また、別の患者さんのケースもご紹介します。
その方は重度の歯周病で、歯ぐきが大きく腫れている状態でした。
私は丁寧に歯磨きの指導を行い、患者さんも一生懸命に努力してくださいました。
その結果、見違えるほど歯ぐきの状態は改善し、歯周病も無事に治療を終えることができました。
しかし、歯科治療は「終わってから」が本当に大切です。
その後も経過観察を続けていたところ、時間の経過とともに、少しずつですが再び歯ぐきの腫れが見られ、歯周病がじわじわと進行していったのです。
「歯ぐきの表面には汚れもなく、丁寧に磨けているのに、なぜ...?」という疑問が湧きました。
このような経験から、私は原因を探るために多くの文献を読み、講習会にも積極的に参加しました。
そして最終的にたどり着いたのが、「生活習慣」と「ストレス」の影響でした。
むし歯の患者さんには、砂糖入りの缶コーヒーを頻繁に飲むなど、食生活そのものに問題があるケースが多く見られました。
一方で、歯周病の患者さんには、生活習慣やストレスが深く関わっていることがわかり、私は最終的にこの2つの要因が大きな鍵であると結論づけました。
この考えにたどり着くまでには、1年以上の時間を要しました。
「お口の中だけを治しても、根本的な解決にはならない」
そう確信した私は、治療と並行して、
患者さま自身に生活習慣を見つめ直していただき、一緒に改善に取り組むこと
日常にふりかかるストレスへの対処法を、患者さまと共に探っていくこと
この2つを、当院の大切な目標として掲げることにしました。
もちろん、歯科医師として「しっかり噛めることの大切さ」は十分に理解しています。
しかし現在は、その「噛めること」ばかりが注目され、生活習慣やストレスの影響については、改善が難しいとされるがゆえに、あまり重視されていないように感じています。
とはいえ、これらは非常に難しい問題であり、すぐに変えられるものではありません。
それでも、生活習慣をほんの少し見直すだけで、病気を予防できる可能性は大いにあります。
ご来院くださる患者さまには、こうした考えを心のどこかに留めていただき、少しずつでもご自身の「健康」に近づいていってほしい――。
それが私たち細川歯科医院の心からの願いです。